月光5


2002/12/16 (月) 迷い道

      もう何度も来た道
      もう何回でも迷い
      教えられるたびに
      理解するのに
      もう一度来る日には
      また再び同じ場所をさまよう

      本当は何度でも
      迷いたい道
      本当はもう
      迷ったきり戻りたくない道

2002/10/25 (金) 何処へでも

   何処へでも行こう
   赤い葉をそっと握り
   踏みしだかれた
   どんぐりの隙間に
   そっと足を運びながら

   春も夏も
   君がいて
   秋も冬も
   君といて

   何処へでも行こう
   金の扇が降る道を
   かさこそと優しい
   足音を聞きながら
   君を求めて

   何処へでも行こう

2002/09/10 (火) 光を待つ

これでいいのだろうかと 泣きたいほど迷っても

あたしの居場所はここにしかないから

あたしの責任は あたしにしかとれないし

あたしの権利は あたしにしか使えないし

これでいいのだろうかと すがりつきたい夜明けにも

あたしはここで 太陽を待つ

あたしはここで 光を待つ

2002/07/21 (日) 夏祭り

   浴衣の裾に絡まった視線に
   思わず身を縮めた
   足首の白さを君だけが確かめている

   石鹸の匂いと綿菓子の破片
   電球に群がる夏の虫の悲劇

   硬い帯の間に指を差し込んで
   今夜君はどんな夢を見るの
   ほの暗い帰り道は
   熱を秘めてそっと静まりかえるだけ

2002/06/21 (金)

     この星のラッピングは青い空と誰かが教えてくれて
     気の済むように引き剥がそうとしてみたけれど
     薄い粘膜のようにベタベタと張り付いて離れない

     この空に包まれて私は息が詰まりそうになる
     したり顔で抜けるような大気の層は私を見守るから
     守ってくれと頼んだ覚えはない 何故そこにいるの

     吸い込んで吐き出す気体の渦で壊れてしまえばいいのに
     私の体をどこか遠い宇宙の隅へ吹き飛ばして
     粉々に骨も残らぬようにして誰からも忘れられたらいいのに

     空はこんな日にもしたり顔で私を見守って
     そんなに私は不幸かと叫びたくなる
     腕を振り上げて声を絞りたくなる

     輪廻の果てで私は いつか いつか
     空をいとおしむ日が来るのだろうか
     こんなに小さな今にも消え入りそうな私が

2002/05/18 (土) レモン

  目覚めたらレモンを切って ペリエを注いだグラスに向かって
  ぎゅっと力を込める 色んな思いを握りつぶす
  金色の果汁が手を汚す それでも構わずに
  もう一切れのレモンを絞る この手の中で潰れていく情熱

  炭酸の泡がレモンの液体を弄ぶ 上へ下へ揺れては混ざる
  絡んでやがてひとつになって ただの飲み物へと変化して
  さわさわと音を立てる 穏やかに静まり始める

  飲み干す瞬間の感覚はあの夜にとても似ていて
  顔をしかめた 太陽と目が合えば 照れるしかない

  私の思いは固体から液体へ やがてただの清涼飲料水に
  そうやって形を変えていくけれど
  生涯この胸に宿り続けるから それだけは変わりようもないから
  ずっと抱きしめて歩いていく ずっとそっと待っている

  Tシャツに飛び散った レモンの果汁を指でなぞる
  ふと香るその瞬間は まるで置き忘れた愛みたいだ
  しばらくこうして 泣いていよう 
  涙もグラスに注ぐ液体だと 言い訳しながら

2002/05/07 (火) 雨の記憶

 冷たい雨が優しいなんて 知り得ずにいた ずっと
 窓ガラスは結露 白く煙って 下らない私を隠してくれる

 じんわりと青信号がにじむ この窓からは きっと
 もう二度とめぐらない愛を ひっそりと見つめたりもできる

 パパの黒い傘 ママの花柄の傘 おばあちゃんの折りたたみ傘
 それから
 私の赤い傘 弟の青い傘 誰のものかも忘れ去られたたくさんの傘

 並べて並べて 作った小さな基地は
 湿ったアスファルトの匂いに包まれて ほっと息をつく場所
 懐かしい懐かしい 雨の記憶

 この窓に隠された私は あの頃と同じ安堵を
 冷たい雨の中に見出して しっとりと癒される

 ぼんやりと灯った外灯が 道行く人を照らしても
 私はそっと隠されている 私は一人隠されている
 この冷たい雨の ほんの小さな思いやりで

2002/04/27 (土) 愛してなんかいない

  身体だけでもいいよ つながっていれば
  心が欲しいなんて いつ言ったっけ?

  私の心を掴んで揺さぶるのは
  あなたじゃない あなたじゃない

  目を閉じて身をかがめて
  私 もう これ以上は

  ぬくもりだけでいいよ つながるのだから
  全てが欲しいなんて 言った事ないじゃない

  愛してなんかいない
  愛されたくもない
  笑顔で切りつける言葉をあなたに向けて
  私 なんで 涙を流しているんだろう

2002/03/07 (木) 人工の味

   あなたの腕の中に囲んでいる その小さな箱庭は
   一体何を模して作られているのか まるで分からない
   少しづつどこからか切り取っては 運んできたとでも
   言いたげな緑 人工の味 人工の夢

   あなたの指にとまった小さな石は 何カラットなのか
   皆目見当もつかないけれど まるでおもちゃみたいだ
   幸せをモチーフに他人が作った砂糖菓子を食べる
   そこにリアルはない 人工の味 人工の夢

   美しさを鼻にかけた少女が
   自信過剰な少年と恋に落ちて
   ちょっと待ってよ
   ごまんとある話
   なんてつまらない日常

   あなたの20年後が今よりも もっと成長していたら
   拍手を送ってもいいなんて思ってみる ありえない話
   成長は若者に任せて 傲慢を繰り返した獣のにおいを
   こんなところに残さずに どうか跡形もなく去ってくれ

2002/03/04 (月) 3月

 まるでそこに居るような 君の幻
 まるで君と居るような 午後の幻

 紺色の夜空を抱き上げるように枝を広げた
 白梅の群れを呆然と眺める 一人きり 今夜

 君の言葉をかみ締めてみる
 君の面影を抱きかかえたまま

 不幸だと言えるのは まだ愛を知らないから
 不幸ではありえない 気持ちがここにある

 去年の続きのように
 3月はやってくる
 だから夢の続きのように
 白い梅の木の下で

 恋に落ちていこう
 もう一度
 愛におぼれよう
 もう一度

 あなたの心を支配するいろんな色のしがらみを
 私がそっと口に入れて 甘く溶かしてあげる

 暖かい夜よ
 あの人の心を
 私から引き剥がさぬように
 特別な魔法を
 私へと注いで欲しい

 甘い香りは
 もう
 2人を支配しているのだから

2002/02/21 (木) 風はゆく

   風はゆく 季節を連れて
   風はゆく たった一人で

   春は来たのかたずねてみても
   ちらりとこちらを一瞥しただけ
   風の言葉は 雲の形だ

   風はゆく 雨を乗せて
   風はゆく 姿もないまま

   明日の空の色を問うても
   さらりとかわしてひゅんと消えて
   風の行方は 気まぐれだから

   あなたの肩に頭を乗せて
   風の姿を追いかけている
   涙をさらう優しささえも
   ついでのような振りをしながら

   風はゆく 花を咲かせ
   風はゆく 甘く香って

   時に私はもう疲れたから
   君に問いかけもう止めるから
   この心だけ引きずって
   天まであげてくれないか

2002/01/18 (金)

   身体を丸めて小さく眠って
   誰か帰ってきたら思わず耳を後ろに倒して
   まん丸な目を見開いたりして気を引いて
   抱っこされてる赤ちゃんに嫉妬なんかして

   アンテナ ぴんと左右に揺らした
   だって一人で待っていた

   ちゃんと抱いてね ちゃんと撫でてね
   だってそれが全てなんだ

   なんかのついでの存在でも
   背中にくっついて眠りたい

   そっとここにおいといてね
   ずっとここに居させてね

2001/12/29 (土) Silent Night

「明日は雪が降るでしょう」
天気予報は見事にはずれて あなたの味方してるみたいな
まぶしい太陽 あなたの匂いがする 

悪戯そうな目つきのままで そっと触れた指先は
優しい時間を止める魔法 夕暮れまで待てない

その胸に手をあてて その声に耳を澄ませて
息を飲んで止められない声 あなたがそっと唇でふさぐ

微かな街の音も テレビの笑い声も
もう聞こえない 見つめている瞳には
燃えるような恋の花 そっと映してる

何度でも繰り返し上から背後から
波は訪れて あなたが最後にそっと沈める
私の心を掴んで沈める

月光は海に投げ出され
海はその銀の光受けとめて
ゆらゆら 風にまかせて 旅に出るんだね
今夜の二人みたいにね

大丈夫だよとささやいた
あなたの声を頼りにして
暗い眠りの森へとそっと落ちていく

朝日に照らされて
あなたが目覚めるまで
あなたの体にそっと背中をつけて
待っている

揺れている心と裏腹に
私たちの船はゆっくりと岸を離れる

岸辺を気にしながら
私たちは見詰め合う
月の光に照らされて
波に揺られて遊ばれながら・・・

2001/11/20 (火) 君の時刻

   遠い空の下にいる人の 過ごす時刻を数えて探す
   深い眠りにいるのかな それとも眠れず何かを思うの?

   遠い空から舞い降りる 君の帰りを待ちわびる
   まるで親鳥待っている 雛鳥みたいなこの気持ち

   私を忘れている時間 私を思い出す時間
   遠い場所で どちらが多い?

   携帯の音鳴るたびに 君を思って震えてる
   理不尽なほどの焦燥を 君に伝えておきたいと
   君の時刻を数えて探す・・・

2001/11/01 (木) 冬の風景

    真夜中の冷たい空気にあおられて 凍りそうな湖を眺めていた
    水面に浮かんだ白鳥のボートを 気味が悪いと肩をすくめる私に
    あなたは笑って煙草に火をつけて うなずいて見せたよね

    あの日あなたはすいた国道 赤信号見落として
    私は慌ててシフトレバーのあなたの左手つかんでた

    抱き寄せたのは多分 好奇心だったんだ

    眠ってしまった私から眠れないあなたが何度か離れて
    朝までの時間はそれぞれに 甘やかに過ぎていった
    あの朝の美しい風景を私はあんなに素直に声をあげて受け入れた

    あんな気持ちは久しぶりで 隣で微笑むあなたが
    この気持ちをくれた事にさえ そのときは気付かずにいた

    恐らく好奇心だけだと お互いに思えたから

    
    綺麗な形ではないけれど
    この愛は私を暖かく包んでくれる

    バランスがとれないけれど
    この愛は私を素直にしてくれる

    恐らく 離れようとするたび
    私たちは何度も引き合うはず
    何度も磁石のように罪が絡む

    今この気持ちを私から剥がしたら
    私は私ではなくなってしまうから

    どうか用のすんだ値札みたいに
    簡単に私から剥ぎ取らないで
    今の私には他に代わりのない愛

    引き合う事を怖がらないで
    あなたの側にいさせて欲しい

2001/10/31 (水) 雨はもうすぐ

さやか月抱いて眠る夜にまで 忍び込みしか 君の影
銀の光が落ちる先 君に注いだ 涙に似て

冷たき躯に手を当てて 静かに座した人の顔
何度も何度も目でなぞる 自らの愛を重ねつつ

忘れてくれと恐らくは 君は言いたし でも言えず
この胸にある孤独の陰が 君をつかんだ唯一の訳

飢えた大地に注ぐよう まるで一時降る夕立
冷たく潤す季節には もういらないと言われたよう

冷えた心に注ぐよう 雨はもうすぐ白くなる
雨はもうすぐ 凍りだす

2001/10/31 (水) 11月のTATOO

あなたと全部の季節を駈けた もうすぐ一巡り もうすぐ11月

シルクのようなお互いの肌をすべる感触 あの日より鮮やかに

暖かく湿った空気を吸い込みながら 私たちの体温は上昇していく

それは罪よりももっと深く 愛し始めた印

あなたの瞳を覗き込む 底のない洞窟に飛び込むみたいに

あなたの全てがわかりたい もうすぐ11月 もうすぐやってくる

窓の外の風が私の限界を教えてる がくんと力が抜けて落ちる

柔らかく甘い声で私を撫でながら あなたの愛は続くあの日と同じに

それは罪よりももっと深く 見つめている印

あなたに刻まれた私は 消え去る事のない11月のTATOO

私に押し入るあなたは 消せるはずもない11月のTATOO

2001/10/30 (火)

秋の優しい光の中に小さなブランコが揺れてる
まだ新しいベランダには小さな靴下がいくつか
万国旗みたいにはためいて楽しそうに

名も知らぬ人が住む家に足を止めて見とれる
そこにはたとえ望んでも得られないものが
山のように詰め込まれている

そこにあなたの姿を重ねる
そこにあなたの持っているものを並べる
容易に想像できる あなたの優しい笑顔

あなたの声をリプレイしてみる
別の誰かに注がれる甘い声
あなたの夢を見ている
目覚めても抱かれる事のない冷たい夜に

通りすがりの家には
優しい木の匂いがたち込めて
あなたをどこかに連れ去っていく
私をどこかへ追い立てながら

2001/10/25 (木) 秋は静かに

    あなたに寄り添いたくて 二人の時間をおねだりした
    夕暮れのすれ違い あなたの冷たい手をそっと握る

    1番側に居たいのは実はこんなときなのに
    こんな時ほど素直になれない
    よそ行きの私が 少しだけ壁を厚くする

    あなたの気持ちは 多分あの頃より分かっているのに
    無神経な言葉で 私を傷つけるあなたは
    冬を呼ぶ北風みたい

    もうすぐ 出会った季節が 再びめぐり来る季節
    あの頃思いを 素直に伝えた 手抜き無く伝えた

    秋は静かに 二人を呼んで
    恐らくあの日と同じように
    愚かで暖かな気持ちを 二人に授けるのでしょう

    秋はいくらか 二人を変えて
    それでも代わりの誰かは居ない
    その事実だけを二人に押し付けて 去って行くのでしょう

2001/10/03 (水)

あなたは大人の顔をして
そんなことばを口にするけど

それなら私のあなたへの思いは
どうやって折り合いをつけたらいいの?
勝手なこと言わないで
そんな簡単なことじゃない

あなたは人生にいくつも
もう保険をかけていて安心してる

だけど私には何も無い
何も無くてもいいくらい私は思っている
勝手に決めないで
私の心はどうなるの?

始まってしまったのなら
もう
多分あとには戻れない

戻れない

本当は好きなくせに
本当は好きなくせに

迷わないで 傷つけないでよ