きみはクリスマスってすきかい? ぼくはだいっきらい。 この世からなくなっちゃえばいいと思ってるんだ。 どうしてかって? それはね、ぼくのお父さんが、サンタクロースだからさ。 |
サンタクロースに家族なんかいるもんか、ってきみは思ってる? いるんだな、これが。 サンタクロース家は、かならず一人男の子がうまれて、そしてその子供が、サンタクロースを引きつぐのさ。 あんなおじいさんなのに、ぼくみたいな小さな子どもがいるなんておかしいって? |
サンタクロースはおとしよりってわけじゃないんだよ。 サンタクロースになるまでは、かみのけもまゆげも、茶色なんだ。 だけど、サンタクロースになった次の日から、何もかも、真っ白になっちゃうんだよ。 どうだい? 考えただけでもゆううつだろ? ぼくだって、しょうらいはサンタクロースになって、その次の日からはかみのけもまゆげも真っ白になって、真っ白なひげがはえちゃうんだぜ。 そしてなにより、ぼくはサンタクロースからプレゼントをもらったことが一度だってないんだ。 お父さんは、世界中の子どもたちにプレゼントを配るのでせいいっぱい。 家に戻ってくるのは、クリスマスイブの夜が明けてから。 だから、ぼくのプレゼントは、いつもお母さんが代理でぼくに配るんだ。 サンタクロースからプレゼントをもらったことがない、サンタの子どもなんて、本当にいやになっちゃうよ。 |
ぼくだってさ。 本当は、お父さんといっしょに、クリスマスツリーを見ながら、ケーキを食べて、たくさんおしゃべりしたいのさ。 そして、まくらもとにつるしたくつしたの中に、こっそりプレゼントを入れて欲しいんだ。 だけど、それはぜったいにできないんだよ。 お父さんは、ぼくいがいの子どもたちのために、いそがしいからさ。 「お父さんはすばらしい仕事をなさっているのよ。わかってあげてね」 ってお母さんは言う。 だけど、ぼくを置いて、他の子どもたちのために、出かけなきゃいけない仕事なんて、いったいどこがすばらしいのか、ぼくわかんないんだ。 ああ、ぼくもしょうらいサンタクロースにならなきゃいけないなんて、もう泣きたいくらいだよ。 |
「ぼうや。空飛ぶそりにのりたくないかい?」 ある日、トナカイのボスが言った。 「のりたい、のりたい!」 ぼくはとびあがってそう答えた。サンタになるのはいやだけど、星の間をかけめぐる、あのそりにだけは乗ってみたいんだ。 「じゃあクリスマスイブの夜、おいらがこっそりのせてあげるよ」 ボスったら、本気なのかな?そんなことしたら、お父さんに見つかっちゃうじゃないか。 ぼくがだまっていると 「だいじょうぶ。ちゃんとサンタクロースさまには、見つからないようにするから」 と、ボスがウインクをした。長いまつげがばさっと風をおこして、ぼくの茶色いまえがみをふうっともちあげた。 |
クリスマスイブの夕方。 ぼくはボスに言われたとおり、トナカイ小屋のうらに行ってみた。 ボスは辺りを見まわしながら、ゆっくりとぼくに近づいてくる。 「さ、声を出しちゃダメだよ」 ボスはそう言うと、首を左右に2回ふった。そしてさいごにぱちっとウインクをする。 長いまつげがばさっと風をおこして、ぼくの顔にふきつけられる。 「……シャン」 ぼくの体は、音をたてて地面に落ちた。 気がつくと、ぼくの体は、トナカイの鈴になっていたんだ。 ボスはぼくの体をそっと口でくわえると、ひょいっと空へほうり投げた。 ひゅーんとおっこちたと思ったら、ぼくはボスの首にちょこんとしがみついていた。 |
「さあいくよ、お前たち」 お父さんがトナカイたちに声をかける。 むらさきいろの空が、こん色に変わっていくとちゅうで、お父さんは、しずかにそりのたづなをゆるめた。 シャンシャンシャンシャンシャン。 トナカイたちの鈴の音がひびきはじめる。 もちろんぼくの体も「シャンシャンシャン」と、リズムにあわせて鳴りひびく。 ボスの首にぶら下がったぼくは、ぐんぐんと空へのぼりはじめた。 |
大きなお月さまが目の前までやってきた。
「やあ、サンタさん。今年もやってきたね、クリスマスが」
お月さまは低くてやさしい声をしている。まるでビオラの音みたいだ。
「今年も明るく照らしてくれてありがとう。行ってまいります」
お父さんはにっこりわらって、お月さまにそうあいさつする。
すると、星たちがうたいはじめる。
サンタさん、サンタさん あの赤い屋根のおうちには おかあさんが病気のこども ケーキがほしいと言ってます おかあさんに食べさせたいと けなげなあの子 サンタさん、サンタさん あの団地の5階には いじっぱりないじめっ子 きっとほんとはさびしいの あったかマフラー、すなおな心といっしょにね |
「そうかい、そうかい」 お父さんはうなずきながら、そりの角度をすうっと下へ向けた。 風をきって、そりは地上におりていく。 |
まずは赤い屋根のおうちへ。 お父さんは、白い袋の中から何かを取り出した。 お父さんの右手には、金色の小さな星がにぎられている。 窓ガラスからそっと部屋の中をのぞくと、ちいさな女の子がひとりベッドの中で眠っているのが見えた。 お父さんは手の中の星を、女の子に向かってほうり投げた。 次のしゅんかん、女の子の枕もとには、小さな星がころがって、3回まわったとおもうと、丸くて大きなデコレーションケーキになった。 お父さんは女の子に笑いかけて 「どうか幸せに」 とつぶやくと、笑ったまま、ぽろんと涙を流した。 涙は、天へかけのぼって、そのままつーっと流れ星になった。 |
次は団地の5階の窓へ。 お父さんはまた、袋の中へ手を入れている。 今度は銀色の小さな星を取り出した。 せまい部屋のなかには、三人の男の子がふとんから足や手をはみ出させて、ばらばらの方向へ頭を向けて眠っていた。 お父さんは手の中の星を、男の子たちの枕もとへほうり投げた。 次のしゅんかん、男の子たちの枕もとには、小さな星がころがって、3回まわったかと思うと、三本のマフラーに早がわりした。 1本は赤。1本は緑。1本は黄色。 「君たちは、本当はいい子だね。まっすぐにお行き」 お父さんはそうつぶやいて、ふうっと窓ガラスに息を吹きかける。 すると窓ガラスがふっと白くくもったが、よく見ると、それはクリスマスツリーの形になっていた。 その家にはクリスマスツリーはかざられていないのだと、ぼくははじめて気がついた。 お父さんはやっぱり笑ったまま、ぽろんと涙を流し、それは、天へとのぼっていった。 |
夜空の星たちが、お父さんに歌いかける。 あの家では子供たちがテレビゲームを欲しがっている。 あの家では子供たちが本を読みたがっている。 するとお父さんは、いちいちそれにうなずきながら、その家へとおりていく。 そして最後には必ず一粒涙を流して、流れ星を作るのだった。 |
「さあ、そろそろクリスマスイブもおしまいだ。帰るよ、お前たち」
サンタさん、サンタさん
するとそれに答えるように、お父さんが歌いだした。
星たちよ、星たちよ
シャンシャンシャンシャン。 |
誰にも平等に、幸せの雪が降り積もりますように。
やさしい気持ちで、この日を迎える事ができますように。
あなたがどこにいても、何をしていても。
愛する事の意味を、忘れず、恐れず、生きていけますように。
2002年 冬 ぽむた